「万智の交遊録」第20回は、丸谷才一さんです。

原宿の「重よし」にて、丸谷才一先生と対談
先日、『新々百人一首』を完成された丸谷先生と対談しました。(文芸誌「文學界」9月号掲載予定=8月7日発売)。王朝和歌を読むことの喜びに、うちのめされるような一冊です。これは必ず歴史に残るお仕事でしょう。一家に一冊! といっても過言ではありません。難しくて読めなくても(笑)、子どもや孫の世代で役に立つかもしれません。
丸谷先生とは、「文の甲子園」という高校生の作文コンクールの審査会で、何年もご一緒してきました。一つ一つの作文に対して、あの『文章読本』の丸谷先生のコメントが、直に聞けるのですから、ぜいたくな話です。毎年の審査会は、とても充実したものでした。
私が『文章読本』を読んだのも、ちょうど高校生のときでした。「書く」ということに興味を持ちはじめていた自分にとって、これほど刺激になった本はありません。同時に、この本に引用されているさまざまな本を、文章のお手本として読みました。大岡昇平の『野火』や岡倉天心の『茶の本』などです。
『樹影譚』や『女ざかり』などの小説もおもしろいですが、丸谷先生は洒脱なエッセイでも知られている人です。もうずいぶん以前になりますが、そのエッセイに「サラダ記念日」のことを取り上げていただいたことがあります。
松尾芭蕉の「文月や六日も常の夜には似ず」という句(明日が七夕だと思うと、六日の今晩もいつもと趣が異なり何となくしっとりした感じがすることだ)を引用して、「七月六日はサラダ記念日」という歌は、この句を踏まえていてなかなかよろしい、と書かれていました。実は正直に言いますと、私はこの句を知らなかったのですが、七月六日を選んだ理由は、まさに芭蕉と同じ気分でした。恋人同士の記念日に七夕というのでは、芸がない。けれど前日というのなら、その香りを分けてもらえる程度で、グッドなんじゃないかと考えたわけです。
ちなみにこの歌は、小田島雄志先生からは「シェイクスピアをふまえていて、なかなかよろしい」と褒められたこともあります。恥ずかしながらこれも知らなかったのですが、シェイクスピアの中に「我が青春の日々よ」といった意味で「salad days」という表現があるらしいのです。
他にも丸谷先生には『とくとく歌仙』という、歌仙の楽しみをぞんぶんに伝えてくれる本もあって、おすすめです。こういったお仕事ぶりからもわかるように、日本の短詩型文学に対して愛情と教養と鋭い批評眼を持った、すごい先生なのです。
第19回 北杜夫さんへ
第18回 星野富弘さんへ
第17回 平地勲さんへ
第16回 南こうせつさんへ
第15回 岩城宏之さんへ
第14回 野田秀樹さんへ
第13回 鴻上尚史さんへ
第12回 吉永小百合さんへ
第11回 森啓次郎さんへ