「万智の交遊録」第40回は、奈良県立万葉文化館館長の中西進先生です。

中西進先生のこと
3月3日、びわ湖ホールでおこなわれた日本ペンクラブの「平和の日 びわこの集い」のリレートークの中で、中西進(すすむ)先生と対談をしました。1800名入る大ホールが、ほぼ満席という盛況ぶりでした。
私たちのテーマは、「万葉」です。中西先生は「古代文学の比較研究を主に、日本文化の全体像をおさめた研究・評論活動で知られる」というプロフィールが示すように、万葉集はもちろん、とにかく幅広く古典に造詣の深いかたです。以前は、源氏物語をテーマに、新聞の座談会でご一緒したこともありました。
当日は、近江という場所にちなんで、蒲生野での額田王と大海人皇子の相聞歌から、話が始まりました。
あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る (額田王)
この歌を私が口ずさみますと、すかさず先生が、
紫草のにほへる妹を憎くあらば人妻故に我れ恋ひめやも (大海人皇子)
と答えてくださるという、息もぴったりあった対談となりました。
教科書に載っていたこの相聞歌で、私は万葉集に出会いました。みずみずしい風が吹いてくるようなリズム、そしてちょっとドキドキさせられるこの歌に、とても魅了されたのを覚えています。
が、大学生になって、万葉の講義を聴き、これらの歌は、秘められた三角関係などではなく、実は宴会の席でこういう趣向を楽しみながら歌われたもの…という説を知り、ちょっとがっかりもしました。
中西先生によると、「人妻」という言葉は、身分の高い人が使った例がなく、たぶんこの歌も、庶民のあいだで歌われていたものが、万葉集にこういうかたちで収められたのではないか、ということでした。なるほど。おおらかに見える恋歌ですが、学問的には、なかなか奥が深いですね。
中西先生は、エライ人という先入観もあってか、一見おっかなそうにも見えますが(!?)、お話ししてみると、とても穏やかで優しい先生です。去年私が出版した『愛する源氏物語』にも、「座談会で話しておられたことが、こうして実を結びましたね」と、嬉しいお葉書をいただきました。
ペンクラブでは副会長をつとめておられます。平成13年にオープンした明日香村の万葉文化館の館長さんでもいらっしゃいます。万葉文化館にはまだ行ったことがないので、いずれ機会ができればと思っています。 |