今回のニューヨーク訪問の、メインの仕事は、ジャパンソサエティでの朗読とスピーチです。朗読する短歌は、事前にハーバード大学の東洋学部日本文学教授のエドウイン・A・クランストン先生(Proffessor Edwin A. Cranston)にお送りして、英語に訳していただきました。
 当日は、まず先生に、私の短歌についての講義をしていただき、それから私の朗読となりました。続いて、朗読した短歌を例にとりながら、短歌の特徴や魅力について話したのですが、聴衆にはアメリカ人も多く、どれぐらい伝わったのか、やや不安。けれど、笑うところでは笑い、納得するところでは頷いてもらえ、かなりいい感じだったのではないかと思います。
 通訳のリンダさんという女性が、素晴らしい言葉の才能の持ち主で、彼女にも大いに助けられました。彼女は、宮崎はやおさんの信頼も厚く、アニメの英訳に毎回指名されて担当しているそうです。今回は「御法度」の英訳を手がけて、カンヌから帰ってきたばかりとのことでした。超売れっ子なのです。十八歳まで四国に住んでいたそうで、金髪のリンダが「何ゆーてんねん」と、関西弁を話す姿には、なかなか凛々しいものがありました。


クランストン教授ご夫妻です

いちばん右が同時通訳のリンダさん


 クランストン教授は、美しい日本人の奥様と一緒にいらしてくださり、私がおみやげに「とらや」の羊羹を差し上げると「おー、抹茶が大好きなので、嬉しいです」と顔をほころばせておられました。
 最後に、サイン会をしたのですが、こちらも長蛇の列で、在米の若い日本人の学生さんからハンサムな黒人の紳士まで、さまざまな人が並んでくださり、短いながらも話ができて、充実のフィナーレとなりました。このサイン会では、ニューヨークの紀伊國屋書店の人と講談社の人にお世話になり、用意された120冊の本は、ほぼ完売。ありがたいことです。
 短歌は、1300年以上も前から、日本にある詩のかたちです。それが、ずっと生きつづけていているというのは、すごいことですよね。文学としてはもちろん、普通 の新聞や雑誌に短歌欄があるというのも、世界で類をみない現象です。つまり、それほど裾野が広く、ごく普通 の人でも、一生に一度や二度は作る機会があるという、国民的な詩のかたちなのです。こんな詩を持っているというのは、日本が世界に自慢できること、日本の文化の財産、と言っていいでしょう。その短歌の魅力の一端を、ニューヨークの人たちに伝えられたとしたら、嬉しいな……そんなことを思いつつ、その日は眠りにつきました。
(『ニューヨーク旅日記』終わり)

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終了後のサイン会では筆ペンでサインしました

【クランストン教授による私の作品の訳をご紹介します】

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と 答える人のいるあたたかさ "isn't it cold?" I ask -- that's when having someone there who will reply "Yes, it's realy getting cold" is what provides the warmth.
さくら さくら さくら咲き初め咲き終わり なにもなかったような公園 Cherry, cherry cherry trees begin to bloom, and bloom is over -- in the park where nothing (it seems) ever happened.
いつもより一分早く駅に着く 一分君のこと考える I arrive at the station a minute carly I think about you a minute.
トーストの焼き上がりよく我が部屋の 空気ようよう夏になりゆく The toast browns, the moment of perfection comes : slowly, slowly, the air in my room turns summer.
親は子を育ててきたと言うけれど 勝手に赤い畑のトマト Parents say their child is a creature they have raised, but the fact is this : each has ripened as it pleased, a red garden tomato.
空の青 海のあおさの その間 サーフボードの君をみつめる Blue of sky blueness of sea surfboard riding between : you only in my gaze.
砂浜のランチついに手つかずの 卵サンドが気になっている Finishing our lunch on the beach, I notice they've gone begging, those egg sandwiches -- it begins to bother me.
「この味がいいね」と君が言ったから 七月六日はサラダ記念日 "Hey, this tastes great!" you said, and so henceforth July the sixth shall be Salad Day.
何層も あなたの愛に包まれて アップルパイのリンゴになろう Layer on layer let me be wrapped around with your love -- let me be the macintosh, the pippin in your apple pie!
なんでもない会話 なんでもない笑顔 なんでもないからふるさとが好き The unimportant talk, the unimportant faces with their smiles -- the fact that it's all so unimportant is the reason it's good to be home.
「おまえとは結婚できないよ」と言われ やっぱり食べている朝ごはん After being told, "I can't marry you" here I am, eating breakfast as usual.
男には首のサイズがあることの 何か悲しきワイシャツ売場 Somehow the mere fact there are neck sizes for men strikes me as sad -- dress shirt counter.
四万十に 光の粒をまきながら 川面をなでる 風のてのひら Over Shimanto falls the light in gleaming grains sown by the wind, and the palm of the wind's hand caresses the face of river.
蛇行する川には蛇行の川の理由あり 急げばいいってもんじゃないよと Meandering rivers have their reasons for each meander -- telling us it's not OK to be in such a hurry.
思い出の一つのようでそのままに しておく麦わら帽子のへこみ One of our memories, perhaps -- I leave it as it is, the dent in my straw hat.
昨日逢い今日逢うときに君が言う 「ひさしぶりだな」 そうひさしぶり Yesterday we met and today we meet again, and you say to me, "it's been a while" -- Yes, it's been a while.
眠りつつ 髪をまさぐる指やさし 夢の中でも 私を抱くの Even in your sleep you go on fingering my hair -- those gentle hands... are you making love to me still in the midst of dreams?
やさしすぎるキスなんかしてくれるから あなたの嘘にきづいてしまう When you start giving kisses that are just too sweet, I'm on to you already -- that phony story.
ふと宿り やがて心の染みとなる ユリの花粉のようなジェラシー Suddenly it's there, and in the end it makes a stain across your heart : like a streak of lily pollen is the mark of jealousy.
ポン・ヌフに初夏(はつなつ)の風 ありふれた恋人同士として歩きたい All along Pont Neuf there's an early summer breeze... everyday lovers strolling in the wind... my wish to be crossing there with you.
男ではなくて 大人の返事する 君にチョコレート革命起こす Not as a man, but as an "adult" you give your reply : against you I now declare : the Chocolate Revolution begins!
  (Resitated at Poetry Forum Japan : Machi Tawara at japan Society Thursday, June 1, 2000)




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