(トップページより続く)……今夜の夕食どころ。韓国といえば、まず焼き肉が思い浮かぶが、出発前夜に「ダーリンと焼き肉を死ぬほど食べちゃった」というアキちゃん(何故だ?)の胃袋を考慮にいれて、今夜は「韓定食」の店にした。その名も「故郷村」。田舎の民家のような外観が、なかなかいい。入り口で靴を脱ぐと、奥のたたみの広間に通された。ちゃぶ台の大きいようなのが、五つ六つ、ポンポンと並んでいる。すでに食事どきのピークは過ぎていて、私たちの回りでは、デザートに進んでいるグループが多かった。隣のテーブルが日本人らしいのだが、男性五人が口数も少なくスイカを食べている。「……いくらなんでも、多すぎるよな」「こっちの人、毎日こんなに食ってんのかな」「う、うー苦しい」。時々聞こえてくる会話は、いずれもこんな調子。見れば、ぎょっとするような皿数の料理が、ところ狭しと並んでいる。「これが、韓定食?」。
 不安になって、尋ねてみると「そうです、2500円の韓定食頼んだら、この量なんで、もうびっくり」とのこと。それで私たちは用心して、1300円の村定食というのにしてみた。が、やはり、すごい量である。注文すると、いきなり次々とお皿が運ばれてきて、テーブルの上が、料理の見本市になったかのような賑わいだ。
 春雨いため、いかとキュウリとワカメの酢の物、野菜サラダ、さかなと大根の煮つけ、辛い辛い野菜のあえ物、山盛りの天ぷら、魚のフライ、冷や奴、韓国のり、キムチ、野菜とにんにくのごま和え、キムチスープ、カニ、そして石鍋で炊いたごはん(朝鮮人参とナツメが入っている)。
 なかでも春雨いためは、あたたかく、にんにくが効いていて美味だった。とにかく品数が多いので圧倒されるが、外食で野菜がこんなにたっぷり摂れるというのは、ありがたい。韓国版おふくろの味、をたっぷり楽しんだ。ビールは、頼むたびに違う銘柄が出てくるのがおもしろいが、大瓶が一本350円と実にリーズナブル。さっぱりしていて、タイなどのビールに似た感じのものが多い。

レストラン「故郷村」入口は風情満点

隣のテーブルで食べ過ぎていた日本人グループ

この春雨いためが美味!

私たちの「村定食」は比較的少量、でこの程度!


 さて、いよいよ夜も更けてきて、初めてのカジノ体験である。出発前に、前「週刊朝日」編集長の森さん(交遊録第11回登場)に聞いた話によると「カジノではセクシーな恰好をしろ」とのこと。彼の経験によると、ディーラーは、たいていその場で一番華やかな女性を勝たせてくれるらしい。そうすれば盛り上がるし、美しい女性の笑顔は、カモとなる男性を引きつける誘蛾灯の役目をも果 たす。「ボクなんか、もっぱらそういう女性と同じところに賭けて、ルーレットではだいぶ勝ったよ」と得意そうに語る森さん。なるほど。
 というワケで、アキちゃんは黄金に輝くチャイナドレスを持参してきた。バッグも靴も、ドレスに合わせて金でコーディネイトしている。私も気合いを入れて、生まれて初めて肩ヒモのないドレスを購入してきた。裾なんか長すぎて、踵の高い靴を履かないとひきずってしまうほどである。もちろんブラジャーも、ストラップレスというのを初めて付ける(これも、わざわざ下着専門店で買った)。ヒモなしというのは、なんとも落ちつかないが、我ながらなかなかセクシーだ(と、思う、たぶん)。
 お化粧もバッチリして、気合い十分な、即席パイレーツ(?)となった私たちだが、果 してこれでいいのだろうかという一抹の不安もある。なんせ二人とも、ちゃんとしたカジノがどういう雰囲気なのか、今ひとつわからない。
 「ねー、やっぱりさ、普通の恰好で、いかにも観光客がちょっと見学に来ました、みたいな感じで偵察して来ない? それで、どれぐらいみんなが賭けているかとかも様子みて……」と、やや消極的な意見を私が出すと、「う、うん。そうだね」とアキちゃんも賛同。再び「普通 の観光客」の姿となって、私たちはホテル内のカジノへと向かった。
 入り口で、観光客らしく「フォト、オーケー?」と尋ねてデジカメを見せると、恰幅のいいタキシードのお兄さんが飛んできて「ノー! ノー!」。──というわけで、残念ながら、カジノ内の写 真は一枚も撮れなかった。そしてさらに残念なことに、我々があのセクシーなドレスを着ることも、二度となかった。
 ……だって、みんな普通の恰好なんだもん。ジーパンとまではいかなくても、ポロシャツ程度の人はわんさといる。逆に、きらびやかな人なんて、全然いない。あんなドレス姿でしゃなりしゃなり登場したら、さぞかし目立ったことだろう。とっても恥ずかしい意味で。(帰国後、森さんに文句を言うと「やっぱりモナコとは違うんだね」と澄ましていた。それなら、次はモナコにデビューだ?)
 ところで、肝心のゲームだが、ルーレット、バカラ、ブラックジャック、ポーカー、ダイサイ、スロットマシーン……と、なんでもある。服装こそカジュアルだが、ゲームに挑んでいる人たちはみな、怖いほど真剣な表情だ。背後で私たちが「あー、そうか、ああなって、こうなって、ふむふむ」なんてヒソヒソ話をすると、ジロッと睨まれたりする。現金をディーラーに渡して、その場でコインに替えてもらうので、台の上を札束が行き交っ
て、なかなかの迫力だ。なかには現金がなくなって、小切手をその場できって勝負している人もいた。シャンソンを歌ったら似合いそうなアンニュイな女性が、一人で煙草をふかしながら、すごい金額を賭けていたりもする。
 意を決して、アキちゃんと私は、ブラックジャックの席についた。まずは5000円をコインに替え、一回1000円(これが最低の賭け金)ずつで勝負したのだが、とにかくツイていない。またたくまにコインはなくなり、「……」。なんというか、ホンモノの雰囲気に圧倒されてしまったようだ。正直言って、最初から最後まで勝つ気がしなかった。
 「どうする?」「うーん、今日は偵察ということで、またにしようか」「そうだね、なんかツキもないみたいだし」。
 最初の気合いとは裏腹に、すごすごと部屋へ帰る二人。そこには二枚のドレスが、私たちの帰りを待っていたのでした。

 

    (つづく、→デジカメ絵日記ソウル編4へ)



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