(トップページより続く)……ソウル三日目の夜、アキちゃんと私は、再びホテルのカジノへと向かった。前回と違って、様子がわかっているぶん、二人とも落ちついている。全体をゆっくりと見渡すと、ひときわ熱く盛り上がっている一角。「アキちゃん、あれなあに?」「バカラですよ。ほら、某狛江市長が身ぐるみはがされて有名になった、バカラとばく。ブラックジャックと似ているんだけど、簡単に言うと、自分がゲームをするんじゃなくて、どっちが勝つかに賭けるんです。だから何となく素人でも公平に勝てそうな気がするんだけど、そこが落とし穴なんですよねえ」。私より、ずっと若いのに、なんでも知っている彼女である。
前回は、ブラックジャックですっからかんになった私たち。どうせなら、ものは経験と、バカラに初挑戦してみることにした。今ルールを聞いたばかりの私が、大胆なことではある。私は一万円、アキちゃんは三万円(気合が入っている)、ディラーに渡してコインに替えてもらう。ゲームの記録をつけるための用紙をくれるのだが、何をどう記録するんだか、さっぱりわからない。でもナメられるのも癪なので、見よう見まねで、それらしく記号を適当に書き込んでみたりした。
端的にいうと、「勝ち」の流れが今どうなっているかを見極める──バカラはそういうもののようだ。頭が回転しなくて、隣の人の真似をしようとしたりすると、露骨にイヤな顔をされる。でも、ツイている人が誰かを考えるのも一つの手段だ。とにかく流れが早いし、やってる人たちはすごい気迫だし、自分自身も勝ったり負けたりで、そのたびに、どっきんどっきん心臓が高鳴る。ふだんは低血圧の私(上が100を越えることはありません。下はヘタすると40〜60)だが、このときばかりは血圧もあがり、アドレナリンとかもバンバン分泌していたのではないかと思う。とにかく、全身がカーッと熱くなる感じ。
たぶん博打好きの人というのは、お金が儲かるということもさることながら、この「カーッ」がたまらないのだろう。おだやかな日常生活には、ありえない「カーッ」である。私は、初心者特有のカンが働いて、それまでの三倍のコインを賭けたときに限って連続して勝ち、気がついたらコインは最初の二倍になっていた。「そうか、今やめれば二万円になるんだ」と思ったなり、闘争意欲はなくなり、しかもかなり疲れてもいたので、ここでやめることにした。はっきりいって、ドキドキのしすぎで気分が悪いぐらいである。
アキちゃんは、まだまだヤル気まんまんなので、そこに残して、私一人が部屋に帰ることにした。それにしても、ほんとうに、その場で二万円の現金を手にしてしまうと、なんだか怖い感じ。「もし、スタートが十万円だったら、二十万円になってたんだなあ」とか「これで今晩の夕食はういたなあ」とか「もっとやってたら、まだまだ儲かったかもなあ」とか、いろいろな妄想が頭をよぎる。そのすべてが、自分にとって都合のいい考えばかりである。しかも、このまえ負けたことを思い出したのは、かなり後になってからのこと。それまで私は、頭のなかで何度一万円を使ったことか。こうして人は、博打にハマっていくのね……ということが、身にしみてわかっただけでも、なかなかの社会勉強ではあった。
それから二時間以上たって夜中の二時になっても、アキちゃんは帰ってこない。一文ナシになっていたらどうしようと心配していたら、やっとご帰還。はじめの三万円を使いきって終了したとのこと。「このコインがなくなるまで、と思って楽しんでいたら、結構もっちゃって」と、にっこり。たいしたエンジョイぶりである。
さて、翌日のメインイベントは「汗蒸幕(ハンジュンマク)」。韓国式サウナのようなところで、お肌を磨こうという計画だ。汗蒸幕とは、特殊な石と黄土を積み上げてドーム(幕)を作り、松の木を燃やして熱するというもの。中に入ると、骨から体があたたまる。約600年前に、王が民の病気治療のために発明したのだそうだ。コーヒーの麻袋を渡されて(これを羽織るということらしい)中に入ると、またたくまに玉のような汗が吹き出してきた。アキちゃんと私は、麻袋を雪んこのようにかぶって座っていたのだが、地元の人たちは、仰向けに寝て、全身にバサッと麻袋をかけている。そういう人たちが、何人も並んでいると、なんだか一見死体(失礼!)のようでもあった。
何度か出入りするうちに、体は完全にふにゃふにゃふやけた状態に。この後、人参風呂(朝鮮人参を十時間蒸して、しみ出させた泡のお風呂)につかり、水風呂、人参風呂、水風呂、人参風呂……と、イヤになるほど繰り返す。そうして、待っていました、アカスリだ。緑色のアカスリタオルを手にした女性が、ふやけきった体を、ゴシゴシこすってくれる。そうすると出るわ出るわ、もう、恥ずかしいほどの垢が、ボロボロこぼれるように落ちてくる。オイルと豆乳でマッサージした後は、髪まで洗ってくれて、すべて完了。そうそう、仰向けになっている間は(けっこう恥ずかしい恰好ですね)顔にきゅうりパックもしてくれた。
以上の基本コースに、アキちゃんは、よもぎ蒸し(お尻の下でよもぎを炊いて、下半身をあたためる)を、私は指圧(これも全裸で行うので、びっくり)をプラスした。今まで着ていた垢の服を、一枚脱いだような軽やかさ。「いやあ、極楽極楽」と、二人でニコニコして店を出ようとしたそのとき、私たちは、とても貴重なものを発見。その店の玄関に、二枚の色紙が並べて飾られていたのである。
「うひゃー、昔は仲よかったんだ」「日付が同じってことは、一緒に来て、裸のお付き合いだったのね」「今、ワイドショーがこれを見つけたら、大喜びかも」──そう、それは、野村サッチーと浅香ミッチーの色紙だったのです。
最後に大笑いをし、その夜は参鶏湯(サンゲタン)と唐揚げを思いっきり食べ(値段も味も大満足。一羽まるまるの参鶏湯が700円とは!)、ソウルのラストナイトを楽しんだ二人。帰りは関空に降り立ち、私はそのまま「ちい旅」滋賀編へと突入したのでした。
(おわり)
![]() 汗蒸幕(ハンジュンマク)の入口で |
![]() 上がサッチー、下がミッチーの色紙 |
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